小堀理のブログ

創作とエッセイ、またその断片

とある乱痴気騒ぎ

 突然、弾けるような爆発音とともに興奮の叫び声が口々に発せられ、マリ子は思わず読書のために伏し目がちだったまぶたを上げた。

 見ると、目の前に濃霧のような灰色の煙が立ちはだかり、男たちがその渦の中で熱狂している。ハッカ油を焦がしたような硝煙の匂いが気管支に流入したので、喉のざらつきを感じたマリ子は、それを追い出すようにして咳き込む。空気をかき混ぜるように手を振って、霧を払いながら目を細めると、仲間たちの陶酔的な顔が、まるで痙攣を起こしたかのような振る舞い方で躍動している様子がぼんやりと浮かび上がり、男たちに対する称賛と憫笑の入り混じった声が不協和音となって鈍くどよめいた。

 霧が風に巻き上げられて視界が晴れると、男たちは下半身を丸出しにして取っ組み合いを始め、闘牛のような勢いで頭から突進した。仲間たちは、「おっぱじめやがった!」と好奇心で赤く血走った目を輝かせながら、にいっと歯茎の見える口元をあらわにした。観衆は、男たちに向かって、彼らの名を怒鳴り、口汚く罵倒し、ごみくずを投げつけた。陰部はだらしなくぶよぶよと揺れ動き、男たちはそれを蹴られ、蹴りあった。そして、ほぼ動物的な痛みのあまり、むごたらしい雄叫びを上げながら膝から崩れ落ち、頭を地面にあてがって身悶えし、恍惚のうちに息をはあはあとさせた。戦闘者のうちのひとりは、ホイッスルを咥えたまま戦いに挑んだので、股間に打撃をくらったときにピイーッという高い音色を響かせて脱落した。

 下半身丸出しの男たちは、放心し仰向けになり呼吸のために胸を激しく天に突き上げ上下させ息を整える。観衆は、その醜態を笑った。ある女が極端に厚底なローファーで横たわる男の脚をつんつんとし、それから彼らの口に無理やり酒を注ぎ込んだ。そして仲間たちは歯茎をあらわにしながら調子外れに呵呵大笑した。少し離れた所にいる仲良しの女三人組はひそひそと噂をしながら男たちを横目で見、肩を小刻みに震わせていた。

 マリ子は、自らが持ち合わせている少ない経験からすれば物珍しい、爆竹によるスモークの効果も相まって想像以上に禍々しい印象をたたえた、男たちの極部に目を見張りながらも無関心を装い、それから仲間たちの声のざわめきに覆い隠されるようにして埋没しながら、再び視線を手元の本に落とした。